日本過酸化脂質・フリーラジカル(活性酸素)学会が設立されたのが1977年のこと。今から約40年くらい前のことで、活性酸素の研究が本格的に研究されてから、まだ半世紀も過ぎていない。
今では『活性酸素』と聞くと知っている人も多いと思うが、私が活性酸素という言葉を知った頃は、ほとんど知られていなかった。
私が活性酸素という言葉を知ったのは、今から25年以上前のことだ。大学生4年生だった私は就職活動をしており、公務員を目指していた。そんな時、私の父の知人から「一度会社に遊びに来てみないか」と声を掛けていただいた。
会社に行ってみると古い建物の1Fに、デスクが6個も入れば一杯になりそうな事務所に社員4人の小さい会社だった。正直、私の胸の内は「えー、これが会社?いやー、就職は考えられない!」と思った。
しかし仕事の内容を聞いているうちに「おや、これは将来面白いかも」と思うようになった。その会社は活性酸素を除去するSOD様エキスという健康食品を販売していた。多くの病気に関与している活性酸素を除去するSODというキーワードに将来性を感じ、その会社に就職した。
就職した当時、今と違って健康食品はお店でほとんど販売されておらず、どちらかと言うと「いかがわしい」イメージがあった。大学の担当の助教授に就職する旨を告げると「大学まで出て、そんな小さなわけの分からない会社に就職するなんて。親が泣くぞ。」と言われた。
入社してからしばらくSOD様エキスはほとんど売れなかった。お給料も月給ではなく、お金がある時の週給払い。「判断を誤ったか。やはりお給料の安定している公務員を目指すべきだったか。助教授のアドバイスを聞くべきだったか。」と思うようになっていた。
そんな時、大手製薬会社に就職した大学の同期とあった。すると彼が読んでいた論文を覗き込むと『活性酸素』『SOD』という文字が飛び込んできた。「活性酸素やSODの研究しているんだ?」と聞くと「今はほとんど知られていないけど、これからはクスリ業界で活性酸素がキーワードになる」と言った。
すると世間の健康食品に対する目も変わり始め、活性酸素も知られるようになってきて、4年目くらいから爆発的に売れるようになった。アッという間に社員が100人くらいの会社に成長した。
健康食品業界に携わって25年以上経って、色々な健康食品を見てきた。SOD様エキスを筆頭に多くの健康食品は、活性酸素に対応した抗酸化物質を使用した商品が多い。
ビタミンであればビタミンC、ビタミンE、ビタミンAが抗酸化ビタミン、リコピン、ルテイン、アスタキサンチンなどのカロテノイド系の抗酸化物質、レスベラトロール、アントシアニン、カテキン、イソフラボンなどのポリフェノール系の抗酸化物質、DHA、EPA、セサミンなどの油系の抗酸化物質、その他にもαリポ酸、コエンザイムQ10、水素なども抗酸化物質として、健康食品に使われることが多い。
美容や健康のトラブルの約80~90%に関与していると言われる活性酸素だから、その活性酸素を除去する抗酸化物質を利用した健康食品の商品が多いのは当たり前と言えば当たり前だ。
活性酸素、抗酸化物質の認知度アップだけではなく、ダイエット、メタボ対策、美容、滋養強壮、免疫対策、ロコモ対策、アルコール対応など各カテゴリーにより、健康食品市場はこの20数年で順調に伸びてきた。
しかしこの数年、抗酸化物質を筆頭にヒットしそうな新しい素材が出てこない印象がある。健康食品の展示会などにも行くが、これと言って売れそうな新しい素材を見かける機会が減っている。数年前から今でも売れているミドリムシ(ユーグレナ)くらいではないだろうか。水素水もこの数年売れているが、ブームに陰りを感じる。
このような現状で今後、売れそうな健康食品のキーワードは、抗酸化ではなく、抗糖化ではないかと思う。糖化とは余分な糖質が体内でタンパク質と結合し、細胞などを劣化させる現象。酸化が「錆びる」であれば、糖化は「焦げる」と表現される。
厚生労働省の発表によると平成28年度の糖尿病患者は約1,000万人、予備軍も約1,000万人。抗糖化作用がある抗糖化物質が研究され、多くの商品が市場に出回れば、抗酸化の歴史のように、抗糖化の市場が確立されるのではないだろうか。
<筆者>NPO法人日本健康食品科学アカデミー 滝浪 周