前回からの続きで、今回はドラッグストアが狭小商圏化に突き進んでいった姿を解説する。はっきり言って、狭小商圏の中でのドラッグストアの競合力は非常に強い。その秘訣は、まず「ヘルスケアを核とした業種から派生した業態である」ということが言えるだろう。
現在ドラッグストアの店内を回ると、OTC医薬品(一般用医薬品)やサプリメント、処方箋調剤はもちろん、近隣のスーパーでも取り扱っていそうな加工食品や日配品、ドリンク類、酒類などを販売しているのがわかる(次回以降で詳細を記すが、コロナ禍においてドラッグストアが多くの生活者から指示されたのは、価格の安さよりも、このワンストップショッピングに対応してきたことが大きいように思える)。
しかも、最近では店内加工の惣菜・弁当や生鮮食品まで範囲を広げるドラッグストアも誕生している。狭小商圏下で競合しているスーパーマーケットやコンビニエンスストアからラインロビングしながらも、安価で購入できる商品が多い(=価格競争力が強い)。
なぜその安さが実現できるのかといえば、“粗利ミックス”という考え方がキーワードとなる。ヘルスケア商材と食品を単体ではなく、「両者の売り上げを加算した上で、どれほどの粗利が出るのか」とするのが粗利ミックスだ。
絶対的に食品の取扱高が多いスーパーマーケットと比較すると、ヘルスケア商材と食品の粗利ミックスを戦略に取り入れることが可能なドラッグストアの方が粗利は得やすい。非常にざっくりではあるが、ドラッグストアが狭小商圏内で勝ち残っている秘訣である。
このように絶好調で業界規模を拡大してきたドラッグストアであるが、果たしてこれが業界の実力なのかと問われると難しいところがある。ドラッグストア業界の総売上高の伸び率が鈍化した時期があり、これは2011〜2015年と記憶している。
業界内からは「もう伸びないのではないか?」「ドラッグストアは出店をしても飽和するだけではないか?」との声が多く出たが、2016年には伸び率を取り戻した。その理由はインバウンド需要だった。
大手を中心に東京や大阪の中心地や繁華街・観光地に免税店を一気に出店し、主に中国からの訪日外国人がドラッグストアで爆買いをすることが流行していた。実際に店頭を取材していると、ナショナルブランドの目薬を10ダース、解熱鎮痛薬を5ダース、オーラルケア商材を100個など、日本人からは考えられないほどの量を一人のお客さんが購入する姿を幾度も目にすることができた。これがドラッグストア業界の追い風となった。
中国・武漢で新型コロナウイルスが発生し、インバウンド需要が低迷した。2020年1月からは訪日外国人がほぼ来日せず「そろそろドラッグストアも前期比超えが難しそうだ」となったタイミングで、日本でも新型コロナウイルスが流行し、インバウンド需要を超えるレベルの売り上げをもたらし、2020年も大半のドラッグストアが好業績を記録した(都市部でビューティケア中心に展開している一部のドラッグストア企業を除いて)。
たまたま中国人のニーズに応えられたのがヘルスケア商材であり、コロナ禍でのワンストップニーズに対応できたのがドラッグストアのフォーマットだった…。つまり近年のドラッグストアは自力だけではなく、社会情勢を味方につけたことで拡大していったと言える。
そこで課題となるのが、コロナ禍で健康意識が高まった生活者に対し、サプリメントや健康食品、健康訴求が可能な一般食品を中心とした「食と健康」によるセルフプリベンション(自己予防)を定着させ、リピーターを作っていくことである。
残念ながら、マーチャンダイジングの大半が本部主導のチェーンオペレーティングを導入しているドラッグストアでは、このコロナ禍であるにもかかわらず、通常の年と同じような棚提案しかできていない。いかに「地域に合致したセルフプリベンション訴求をし、ロイヤルカスタマーを育成していくか?」。これがドラッグストア業界の大きな課題であろう。
次回は、サプリメントや健康食品、健康訴求が可能な一般食品を活用し、「食」と「健康」をリンクさせることの重要性についてお伝えしたい。
<筆者>流通ジャーナリスト・佐藤健太