日本での健康食品市場の本格的形成は、昭和50年代後半のビタミンブームに起因する。
ノーベル化学賞、ノーベル平和賞、2つを受賞したばかりでなく、“ビタミンの父”とも呼ばれ、ビタミンブームの火付け役となったライナス・ポーリング博士の来日や、米国でのベストセラー「ビタミン・バイブル」(アール・ミンデル著)の日本語版が出版された昭和57年ごろを境に、本格的な健康食品ブームがやってきた。
それまで健康食品は、極一部を除き、サルノコシカケなど食材そのものであったり、紅茶キノコのように家庭でつくるようなものだったり、どちらかと言うと自然食品(長寿食・食養料理など)に近かった。
実は健康食品が昭和50年代後半まで定着しなかった原因の一つに国の規制がある。
昭和46年6月1日「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」が各都道府県知事宛に、当時の厚生省、薬務局長から通知された。
この通知が健康食品の形状や包装を日本で初めて規制したものとなる。
当時は錠剤、丸剤、カプセル剤、アンプル剤のような剤型は、一般に医薬品に用いられる剤型として認識されていた。通常の人が製品を医薬品と認識する大きな要因となっていたことから、明らかに食品とわかるお菓子や調味料など以外は原則として医薬品に該当すると判断された。
またPTP(Press Through Package)などの包装も意匠及び形体が市販されている医薬品と同じ印象を与えるということで原則として医薬品に該当すると判断された。
しかし昭和46年から現在に至るまで、特にこの十数年間、国民の食生活の多様化、国民の健康に対する意識の変化が見られることなどをふまえ、厚生労働省が順次規制緩和を行い、健康食品には色々な形状や包装が使えるようになった。
成分によって品質管理等の必要性が認められる場合などには、医薬品的形状の錠剤、丸剤又はカプセル剤などであっても、直ちに医薬品に該当するとの判断が行われていない。
実態として従来、医薬品的形状とされてきた形状の食品が消費されるようになってきていることから、食品である旨が明示されている場合、原則として形状のみによって医薬品に該当するか否かの判断は行わないことになっている。
これはPTPなどの包装に関しても同様。食品である旨が明示されている場合、原則として包装形体のみによって医薬品に該当するか否かの判断は行わないことになっている。
但しアンプル形状など通常の食品としては流通していない形状を用いることなどにより、通常の人に医薬品と誤認させることを目的としていると考えられる場合には医薬品として判断される。
日本に健康食品が定着してから約35年。ただ法律上、健康食品という分類は未だにない。
消費者庁が発表した「いわゆる健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」の中に以下のような文章がある。
本留意事項の対象となる商品は、「いわゆる健康食品」である。
健康食品は、法令上に定義されている食品ではないが、一般的には、健康の保持又は増進に係る効果、機能等を表示して販売・利用されている食品(栄養補助食品、健康補助食品、サプリメントなど)全般を指すものとして用いられている。
健康食品市場は10年以上、1兆円を超える市場となっている。それでもいわゆる健康食品なのだ。
昭和46年6月1日「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」が通知された当時、我々の口に入るものは、大別すると薬品と食品だけに分けられた。
しかし現在までに、健康志向の高まり、セルフメディケーション、高齢化社会対策などのニーズにより、食品は細分化されてきている。
特定保健用食品(トクホ)、栄養機能食品、機能性表示食品と呼ばれる食品が生まれ、ある程度の効果を謳うことが出来る。
例えばDHAの機能性表示食品であれば、「情報の記憶をサポート」などと表示できる。しかし全く同じDHAの原料を使用して、同じ量を含有させた健康食品では、効果を謳うことは出来ない。
健康食品が日本に定着して約35年。市場は大きく成長したが、トクホ、栄養機能食品、機能性表示食品、健康食品の違いに関する認知度や法の整備など、まだまだ課題は山積みだと感じる。
<筆者>NPO法人日本健康食品科学アカデミー 滝浪 周