コロナ禍で最も生活に浸透したのが「マスク」だったと言っても過言ではないだろう。コロナ禍におけるマスクの動向を振り返ってみると、2020年3~8月あたりにかけては、入手困難になるほど需要と供給のバランスが崩れていた。
開店時間前のドラッグストアにはマスクを求める生活者たちが行列をなしている姿をみることもしばしば。挙句の果てには、フリマアプリや街角にある雑貨屋では、粗悪な中国産のマスク(50枚入り)が100,000円以上で売買されるなど、消費者心理を利用し、姑息な手段で利益を得ようとする人たちが続出。ドラッグストアではマスク購入をしようとしているお客さん同士で乱闘騒ぎがあったりと、数カ月間もこの異常事態が続いた。
ではなぜ、ドラッグストアでこんなにもマスクが入手しにくくなったのだろうか。今回は、その謎に迫りたいと思う。
第一に「マスクの売れ行きに懐疑的だったドラッグストア」が挙げられる。要するにドラッグストアからすると「新型コロナウイルスの影響で、こんなにもマスクが売れるとは思わなかった」ということだ。
すこし過去を振り返ってみよう。2003年にSARSコロナウイルスが流行した際に、ドラッグストアは「とにかくマスクを仕入れまくれ!」と、倉庫が満杯になるほど手当たり次第にマスクを仕入れたのだが、SARSが予想以上に早く流行が終結し、日本には入ってこなかった。マスクを数年にわたって使い切らない家庭が多く、その間、ほとんどマスクが売れなかった。そして大量のマスクを廃棄処理してしまった…。こうしたドラッグストア企業が多く存在した。
そのため、新型コロナウイルス流行の当初において、「またSARSの苦しみを繰り返すのか…」「今マスクを大量に仕入れるのはリスクが高い…」と尻込みしていたドラッグストア企業もあった。それに伴い、メーカーもマスクの増産体制を敷くのが遅くなり、店頭からマスクが消え、乱闘騒ぎが発生してしまうほどの環境が数カ月も続いた。
その後もマスクの需要はとどまることをしらず、マスク市場はコロナ以前と比較し10倍以上にも伸長していった。「マスク」と一口に言うが、今回のコロナ禍で注目したいのが「布マスク」「ウレタンマスク」などの市場が開拓された。
これまで不織布マスクが圧倒的な強さを見せていたが、不織布マスクが購入できなかった期間に「布マスク」「ウレタンマスク」が一定の支持を得て、現在も継続して使用している生活者がいるほどだ。これらマスクは使い捨ての不織布マスクよりもSDGs的であり、エコ意識が高い、ファッション性を重視する人たちに使われている傾向にあり、ドラッグストアやホームセンターなどの店頭に「布マスクコーナー」ができてしまうほど品ぞろえも多い。新型コロナウイルスは人類に大きな打撃を与えたが、良くも悪くも新たな需要が芽生え、潜在意識を顕在化させる機会になったのは間違いない。
流通ジャーナリスト=佐藤健太