先日、ヤフーニュースを見ていたら「胎盤(プラセンタ)食に注意喚起!エビデンスなく健康被害も」という見出しのニュースが目に入った。日本で美容や滋養強壮のサプリメント、ドリンクなどでこれだけ飲まれているプラセンタが健康被害を起こすという記事にビックリした。さらにプラセンタにはエビデンス(効果の証拠)がないと言うのだ。
発信元は健康産業新聞で以下のような内容だった。
出産後に取り出された胎盤をサプリメントなどに加工して摂取する「胎盤食」は、健康被害をもたらす可能性があるとして、注意喚起がなされている。
オーストラリア保健省の薬品・医薬品行政局は1月「胎盤の摂取は、潜在的なリスクがある」と声明を発表。米国疾病予防管理センターも昨年、胎盤をカプセルで摂取していた母親の子供が、深刻な感染症を引き起こしたとして、注意を呼び掛けている。
医薬品にもなっているプラセンタに効果の根拠がないとはどういうことだろう。
記事には
産婦人科系専門誌「American Journal of Obstetrics & Gynecology」に昨年掲載された論文では「ヒトが胎盤を摂取する臨床的利点の科学的根拠は全くない」と健康効果を否定。
ネットで「プラセンタ 論文」で検索すると何個もプラセンタの効果を示す論文が出てくる。これら論文は嘘だというのか?日本は健康効果が全くないものを医薬品にする国なのか…
記事が掲載された翌日から複数のお問い合わせがあった。ある大手ドラッグストアのバイヤーさんからは「この商品にプラセンタは入っていますか?」と。その商品にはプラセンタが入っていなかったので「入っていませんよ」というと安心していた。
お問い合わせが多かったので、プラセンタの国内大手メーカーの知り合いに聞いてみた。やはりそのメーカーにもお問い合わせが多く来ているとのことだった。「あんな記事が出たら原料が売れなくなるのでは?」と聞いてみると「今のところ、それ程の影響はない」とのことだった。
何故、このようなニュースが報じられたのかを聞いてみた。要は「胎盤食」と言っても、今回の件は母親が自分の胎盤を乾燥させ、カプセルに入れ、滋養強壮の目的で飲んだことで健康被害が起きたのだ。胎盤は殺菌されておらず、そのため深刻な感染症が引き起こされたのだ。
日本で製造されている豚や馬などの胎盤から抽出し、サプリメントや化粧品に使用されているプラセンタは殺菌されているので飲んでも付けても感染症の心配はないとのことだ。
また「健康効果がない」というのは、「人の胎盤を食べた場合の健康効果の有無を調べていない」という意味だと思うとメーカーの担当者は言っていた。
多くの哺乳類が有する胎盤。野生で生きている胎盤を有する動物の多くは、出産が終わると直ぐに自分の胎盤を食べる。特に草食動物が胎盤を食べる。その理由は諸説あるが、「産後の滋養強壮のため」「肉食動物に見つからないため」などだ。
人間でも胎盤を食べる習慣がある国がある。中国では胎盤は漢方であり紫河車と呼ぶ。2000年以上前から滋養強壮、老化防止のために食する人がいる。その他でも韓国、ベトナム、インドなどのアジアだけではなく、タンザニア、ジャマイカなどの国で食す習慣がある。
日本でも病院ではなく、お産婆さんに赤ちゃんを取り上げてもらっていた時代、胎盤を食べていた人がいたそうだ。現代でも病院の許可をもらうなどのいくつかの条件を満たせば、胎盤を食べることは可能だ。
健康食品業界では、以前にも同じような風評被害的な誤解を招く情報発信があった。2006年2月、厚生労働省が「一部のアガリクス商品に発がんのプロモーション作用がある」と発表したのだ。今でも覚えているが、夕方のニュースでも取り上げられており、多くの方が知ることになる。それも「一部の」「プロモーション作用」という言葉が抜け、「アガリクスには発がん物質が含まれている」という情報が広がってしまった。
一部のアガリクス商品と言われたのが大手の商品で、実はその商品に使用していたアガリクスを納めていた会社の担当者を私は知っていた。その人から聞いたのだが、そのアガリクスは中国産で、生産の時か輸送する時に、ホルマリンで消毒してしまい、それが発がんのプロモーション作用を引き起こした可能性が高いと言っていた。
その事実は厚生労働省も分かり始めていたようだが、結局、明確な原因を発表せず、ただ「アガリクスには発がん物質が含まれている」という印象だけが残ってしまった。今でもネットで「アガリクス、厚生労働省」と検索するとたくさんその時の記事が出てくる。
新たな事実として「アガリクス自体には発がん物質も含まれないし、発がんのプロモーション作用を引き起こす可能性もない。ただホルマリンなどの処理により、一部の商品にそのような可能性がある。」とマスコミを集めて発表してくれれば良かったのだが・・・
たった20年くらい前のインターネットが普及していなかった時代、新聞や雑誌、口頭などアナログな方法でしか情報は入ってこなかった。ちょっとした事件があっても地元で噂になるだけで、今のように全世界に情報が発信され、炎上し、経歴、家の住所、家族構成など突き止められることなどなかった。
しかし現代のようにSNSなどで情報が簡単に拡散する時代、情報を発信する人は慎重にならなけらばならない。私も情報を発信する者として肝に銘じなくてはならない。万が一、間違った情報を流してしまった場合、発信した時以上に訂正や謝罪を繰り返すべきではないだろうか。アガリクス事件に関して、厚生労働省やマスコミなど関わった人たちに対して思うことである。
<筆者>NPO法人日本健康食品科学アカデミー 滝浪 周