総務省統計局の調べによると、日本人の人口は2004年の1億2784万人をピークにほぼ右肩下がりで微妙に減少している。2017年では1億2671万人となっており、2050年には1億人を切ると推計されている。
更に2017年の65歳以上の高齢化率は27.7%となっており、国民の4人に1人以上が高齢者となっている。2050年には高齢化率は39.6%と推計され、3人に1以上が高齢者となる。
(出典:総務省ホームページ)
このまま人口が減少し、高齢者が増えれば健康食品市場だけではなく、あらゆる市場が縮小してくるのは当たり前のことに思える。
国の経済が成長しているか、後退しているかの指標となるGDP(国民総生産)。この数年間の日本のGDPは約0~2%くらいが続く。つまり何とかわずかに成長している程度である。他の国と比べてみると
・インド:6~9%
・中国:約6.7~6.9%
・ベトナム:4~7%
・インドネシア:4~6%
・タイ:3~5%
・シンガポール:2~5%
・韓国:2~4%
・アメリカ、ドイツ、フランス、イギリス:約1~3%
・イタリア:0~2%
上記を見ると経済的に既に発展している先進国は軒並み成長率が悪く、その中でも日本とイタリアが最下位となる。
健康産業新聞の調べによると、今から約30年前の1988年の日本の健康食品市場は、約3200億円である。その市場は右肩上がりで2005年には1兆2850億円になった。しかしこの年がピークとなり、健康食品市場は2006年から2018年の間、1兆1000億円~1兆2500億円の間で横ばいに推移している。
人口が減少し始めたのが2005年。健康食品市場が横ばいになってしまったのが2006年。ほぼ年数が一致するのは偶然だろうか。更に人口が減少したら、日本の健康食品市場が小さくなることはあっても大きくなることはないように思う。
日本の健康食品市場が飽和状態だとしたら企業はどうすればよいのか。他社より魅力的な商品を開発し、国内で消費者の取り合いを続けるのも一つの方法だろう。
しかしこの数年の日本の市場の動向をみていると海外に目を向けた方が成功できるのではないかと思える。特に先にあげた経済成長率が高い中国などの東アジア、インドネシア、ベトナム、タイなどのASEAN諸国に目を向けるべきではないだろうか。
(ASEAN諸国 出典:外務省)
先日、中国で行われた展示会に行ってきた。主催はCMC(China Medical City)という公的機関だ。「健康中国」を掲げ、中国の医薬、健康産業の発展を目指す組織だ。
展示会には世界30ヵ国から1010社の企業が出展しており、日本からも医療機器メーカー、大手製薬メーカーから中小の健康食品メーカーなどが出展していた。
驚いたことに出展料は無料、ブースの製作費も無料、展示ケース、テーブルなどの備品も無料、更に宿泊先のホテルも無料、更に3食付き。現地までたどり着けばほぼ無料の世界である。
これだけの経費を使うのだから、「健康中国」のために国をあげて国民の健康意識を高める活動をしているのは明らかで、今後も中国国民は、健康食品を含め、健康に一層意識が向くはずだ。
近年、中国や香港、韓国、ASEAN諸国でも健康食品が売れている。ヘルスビジネスマガジン社の調べでは、2010年の中国の健康食品市場規模は約4兆2000億円。2015年には約8兆2000億円となり、たった6年間で2倍近くの規模に膨れ上げっている。日本の市場規模の約7倍にもなる。人口的に考えれば中国は日本の10倍以上の人口だから、この先、まだまだ市場が伸びる可能性が高い。
中国の販売チャネルとしては日本と同じように、薬局、スーパー、専門店などの店舗チャネル、マルチ・レベル・マーケッティング(MLM)チャネル、それと越境ECチャネルが主となる。日本と同じようにMLMではアムウェイも進出しているが、中国内での売り上げ高では2位となり、1位は無限極という中国のMLMの企業だ。
(ある中国のMLM企業のセレモニーホール)
越境ECは中国国民がネットで海外から商品を買うシステムで、購入先として一番多いのが日本の商品である。売上の4分の1を占めており、安全性、信用性などで日本製品は人気がある。
上記してきたように海外、特に経済成長を続ける東アジア、ASEAN諸国に健康食品の企業は目を向けるべきだと思う。目を向けるべきだが、問題もある。
例えばGDPの伸び率が高いインドはまだまだ発展途上すぎて、交通網や集金方法などインフラ関係が未発達で、ネットで注文を貰ってもお客様に商品を届け、代金を回収するのが大変になる。ただGDPの伸び率が高いというだけでは駄目だ。
一番の問題は中国を筆頭に、健康食品に対するその国々の基準や規格、規制、法律などがあることだ。例えば「日本では使用できる添加物が中国では認められない」「インドネシアなどイスラム教の人が多い国では豚由来の原料を使用できない」「原発の問題で原産地として認められない都道府県を指定している」「形状が食品として認められない」など。
海外進出には色々な問題、苦労はある。頑張って調査して情報を蓄積していくことも大事だが、その国の事情を熟知している良きパートナーを見つけ出すことも大事である。
<筆者>NPO法人日本健康食品科学アカデミー 滝浪 周