新型コロナウイルスの影響は思わぬところにも打撃を与えた。
東京商工リサーチの調査で2021年1〜8月の調剤薬局の倒産が過去最多で22件(前年同期比83.3%増)となり、調査が始まった2004年以来、年間最多だった2017年(17件)を大幅に上回ったという。新型コロナウイルスの感染予防を図ろうと受診を控える生活者が増加したことが一つの要因だとされている。
だが、この背景にはドラッグストアが調剤市場で頭角を表してきたことも挙げられる。ここ10年ほどウエルシア薬局やスギ薬局、ココカラファインなどが調剤併設ドラッグストアの出店を強化し、収益を支える大きな柱として医療用医薬品が成長している。調剤市場は7.5兆円ほどだとされているが、このうちドラッグストアは1兆円ほどを占めるほどとなっている。
調剤併設ドラッグストアの強みは、なんと言ってもワンストップショッピングニーズに対応しているということだ。つまり処方箋を薬剤師に渡し、調剤している時間は併設のドラッグストアで買い物が済ませられるという利便性の高さである。
コロナ禍では、人との接点を避け、出来る限り利用する店舗を削減し、さらに時短で買い物を済ませるといった生活者が続出した。これまでは病院やクリニックの門前に立地している調剤薬局に処方箋を持ち込み、調剤している時間は待合室で過ごすというのが当たり前であったが、「混雑している」「待ち時間が長い」というイメージから、コロナ禍ではあまり支持されていなかった。
こうした中、マスクや消毒剤、ハンドソープなど感染症予防対策商材の買い場としてドラッグストアは、かつてよりも来店層を広げており、特に100坪ほどのドラッグストアは、スーパーマーケットよりも売り場面積が狭いが、無駄な回遊をせずに幅広い商材を入手できることから、時短というコロナ禍における買い物ニーズの受け皿となった。
こうした流れから、調剤併設ドラッグストアに処方箋を持ち込み、同時に必要最低限の食品やヘルスケア商材、ホームケア商材を購入するという生活者が続出したのだ。ドラッグストアでナンバーワンの調剤売り上げを誇るウエルシアホールディングスは、2020年通期の調剤売り上げは1,741億6,900万円(前年同期比112.0%)、2位のスギホールディングスは1,175億9,700万円(同111.7%)と好調に推移しており、当面は持続されると予測されている。
このようにドラッグストアという巨大資本が調剤事業に積極的に投資し、コロナ禍においてドラッグストアという業態が持つ強みの理解が生活者まで浸透したことが、個人経営の調剤薬局に大打撃を与え、過去最多の倒産件数として表面化してきたのだと推察できる。
今後も調剤薬局とドラッグストアは調剤市場で壮絶な競合を繰り広げなければならないが、調剤薬局がどのように独自性・専門性を出し、ドラッグストアの利便性に立ち向かっていくかが、注目すべき点だろう。
流通ジャーナリスト=佐藤健太