前回、新型コロナウイルスによるマスク市場への影響について書いたが、今回は直近のマスク関連では欠かせない「JIS規格制定」(2021年6月)についてお伝えしたい。
日本における一般用マスクは、2005年に日本衛生材料工業連合会内に全国マスク工業会が設立され、同会により「マスクの適正な表示・広告のための自主基準」(2005年)、「衛生マスクの安全・衛生自主基準」(2010年)などの業界基準を経て、今年6月に経済産業省と厚生労働省より「マスクの日本産業規格(JIS)」が制定されることとなった。
同規格内での、一般消費者が使用する「一般用マスク」は、医療・介護現場で使用される「医療用マスク」と同じ「JIS T9001」の規格にあたり、4つの捕集機能(微粒子状物質、バクテリアを含む飛まつ、ウイルスを含む飛まつ、花粉粒子)と圧力損失(通気性)、安全・衛生項目を規定している。
経産省は「JIS T9001」制定にあたり、「全国マスク工業会が定める業界基準に準じて同規格の制定に踏み切った。JIS規格制定は通常1年ほどかかるが、業界基準の水準が高いため、スピーディーに制定できた」と語る。
コロナ禍において、マスクの公的規格が整備されておらず、各メーカー独自の試験方法による品質表示情報を元に性能を判断せざるを得なかった状態を、業界が動かした形になるだろう。
これによって期待できるのは、これまではメーカーやブランドを信頼して購入していた生活者に対し、「JIS規格が申請されているマスクならば、いつどこで購入しても品質が担保されている」という環境を提供できるようになったことだ。
「JISマークがあるかないか」という簡単な判別方法でユーザーに安心感を与えることが可能となり、これによって価格だけではなく、品質での競争にもつながるということに期待するヘルスケア業界関係者は非常に多い。
また、マスク関連品市場も活況だった。マスクによる外耳の荒れや痛みを防止するグッズ、これまで冬場に大きなヤマを作っていた眼鏡のくもり止めが年間を通してリピート購入されたりなど関連品もQOLを高めることに寄与した。
また、「マスクニキビ」「マスク肌荒れ」などマスク着用による症状を緩和する一般用医薬品も登場した。おもしろいのが、コロナ禍に対して新製品を上市したのではなく、既存品をコロナ禍に対応したマーケティングに落とし込んでいるということ。
たとえば、一般的な皮膚用薬(OTC医薬品)の外箱に「マスクニキビに効く!」とうたったシールPOPを既存品に貼付し、「今最も響く商品」に変化させるなどだ。ドラッグストアとメーカーが情報交換を密にし、ともに市場を開拓していこうという姿勢がスピーディーな売り場づくりにつながったのだと思う。マスク関係だけではなく、新型コロナウイルスによって顕在化しそうなニーズは多々ある。これに即反応し、商品に反映させ、売り場をつくっていくことが、市場を開拓していくにあたって肝要となる。
流通ジャーナリスト=佐藤健太