超高齢社会への突入や発展する人口減少、少子化など日本の人口構造の変化によって大打撃を受けているのが、他ならないリテイル業界である。かつては大商圏〜小商圏をターゲットにウィークリーユース業態が大いに支持され、国道などの大きな路線沿いには、数多くのGMS(ゼネラル・マーチャンダイズ・ストア)やNSC(ネイバーフッド・ショッピング・センター)が展開された。だが今はどうだろう。
長らく日本のリテイル業界で大きな影響力を持ったイオンやヨーカドーなど大手ですらGMSやスーパーマーケットの業績が芳しくなく、既存店の改装や新店の積極的出店などのテコ入れ・戦略で業績改善を実現しようと必死になっている状況だ。その理由の1つに挙げられるのが、前述した人口構造の変化に対応し切れなかったということだ。
人口構造の変化がリテイル業界に与えた試練が“狭小商圏への対応”…。つまり、これまで乗用車に乗って、少し離れた大きな店舗で数週間分の食生活・日常生活に必要な商品を購入してきた世代が、高齢化によって乗用車に乗らなくなり、徒歩圏内の小さな店舗で数日分の買い物をするようになった。“行け行けドンドン”という姿勢で大規模店を展開してきたGMSやスーパーマーケット企業が、この消費動向に既存の店舗フォーマットで対応しようとしたが、進展する狭小商圏化についていけなくなり、それに伴って業績が悪化してきたという流れだ。
だが、こうした環境に比較的早期に対応しようと実験を繰り返してきた業界がある。それは、私たちのもっとも身近な業態と言っていいだろうコンビニエンスストア、安価を前面に出しながらもワンストップショッピングやヘルスケア意識向上に対応して支持を広げてきたドラッグストアである。
前述したように狭小商圏への対応が奏功したコンビニエンスストアとドラッグストア。しかし、その狭小商圏の中で激しくぶつかり合うことになる。小さな範囲に住むターゲットの奪い合いとなってしまったからだ。ここで詳しくは書かないが、GMSやスーパーマーケット企業による小型スーパーマーケットも狭小商圏に投入され、三すくみの状態になっている。新型コロナウイルス流行以前、そこで圧倒的な強さを誇ったのがコンビニエンスストアだ。小さな店舗ながら弁当(物販)から銀行ATM(サービス)まで幅広い機能を持ちつつ、徹底的な商品戦略で定価販売ながらも、来店客に「コンビニだから」と納得させた上で購入される環境づくりに成功したからだ。その上、プライベートブランド(PB)のブランディングにも注力し、中〜高価格帯の食品の販売力も非常に強く、営業利益率の向上にも繋げることができた。これは店舗運営に対する新たな投資にも関わってくることであり、コンビニエンスストアの強さのエンジンにもなっている。
そんな“強い業態”とガチンコで殴り合うたくましさを備えた業態がドラッグストアだった。ドラッグストアは、かつてOTC医薬品(一般用医薬品)やサプリメント、日用雑貨をメインに販売する、地域住民にターゲッティングしたマンスリーユースの業態だった。取扱商品の粗利率が比較的高いものが多かったため、「あまり頻繁には来てもらえないけれど、1回の買い物で出る利益は多い」ということで生き残ってきた。
これがコンビニエンスストアの台頭によって、自分たちの商圏が掻き乱され、「だったらヘルスケア商材を中核としたワンストップショッピング業態を目指そう」と、競合のドラッグストア企業とは片手では殴り、もう片手はつなぐような形で業界全体がまとまり、業態開発に取り組んできたのがドラッグストア業界である。それがコロナ禍で支持層を広げた大きなトリガーとして昇華されることになる。
今回は、非常に簡単であるが2000年前後〜新型コロナウイルス流行以前のリテイル業界を解説した。次回は、狭小商圏化でなぜドラッグストアが好調を持続することができたのかについてお伝えしたい。
<筆者> 流通ジャーナリスト 佐藤健太