これまでドラッグストアのここ10年を振り返りながら、コロナ禍に対応する姿を書いてきたが、今後の課題として挙げられるのは「ヘルスケア商材をどのように供給していくのか」に尽きる。狭小商圏における熾烈な異業態との競合及び、コロナ禍のワンストップショッピングニーズに対応するために、生鮮食品や加工食品を強化してきたからだ。
これはマンスリーやウィークリーユース業態だったドラッグストアがデイリーユース業態に変貌をとげ、来店客数と客単価が高まったものの、粗利率が低い食品をメインに買い物する来店客が増加したため、ドラッグストアが得る利益率が減少していることを表す。
これがコンビニエンスストアやスーパーマーケットならば、ほとんどが一般従業員であるためある程度の人件費をコントロールしやすいが、ドラッグストアはヘルスケアリテイルという特性を持っており、これを生かすために薬剤師や医薬品登録販売者などを従事させる必要がある。特に薬剤師は1時間あたりの人件費がずば抜けて高い。さらに、「食と健康」を結びつけるために、管理栄養士・栄養士を従事させるドラッグストアが増えていることから、販管費はこれまで以上に必要となってくる。
ウエルシア薬局やスギ薬局など本格的に地域医療に参画しようとするドラッグストア企業は販管費率が売り上げに対して25%を上回る状況にあり、地域のヘルスケアを担っていく上でこれを抑制するのは非常に難しい問題となっている。
そこで浮かび上がる課題は冒頭にも書いた「粗利率が高いヘルスケア商材をどのように売っていくか」というところに行き着く。ヘルスケア商材とは、一般用医薬品やサプリメント・健康食品、健康訴求の加工食品などが挙げられ、ドラッグストアはコロナ禍で得たユーザーに対し、買い物をマスクや一般食品にとどまらせないアプローチが重要となってくる。
このコロナ禍、筆者がドラッグストアを取材していて驚いたのが、コロナ禍だからといって特別な販促を実施せず、通常と同じような売り場展開をしていたことだ。若干マスクや消毒液、手洗い石鹸の売り場が拡張されていたくらいで、それ以外は平常時と何ら変化がなかったように思える。
新型コロナウイルスの影響で、「風邪薬はあまり飲まない方がいい」という常識が定着しているのにもかかわらず「つらい風邪に鋭く効く!」「自身の風邪のタイプに合った薬を飲もう!」と訴求しても、風邪薬に手を伸ばす来店客は絶対的に減っているし、これはID-POSデータを閲覧すれば、市場がシュリンクしていることが簡単に分かる。その季節の棚割りが事前に決まっていたとしても、来店客のニーズからあり得ないくらい乖離していた。
一方で予防意識が高まっているのは事実であり、だったら滋養強壮を訴求する一般用医薬品や、免疫力を高めることが期待できるサプリメントなどを中心に展開していくべきである。ヘルスケア商材がドラッグストアの業績改善に寄与するのは明白であるが、これをきちんと来店客のニーズに合わせて、柔軟に対応していくことが不可欠なのだ。
ドラッグストアで当たり前のように食品のみを購入していく来店客は当面増えていくだろう。そこで、これら来店客をどのようにロイヤルカスタマーに育成していけばいいのか。そこに本腰をあげているドラッグストア企業は少ないように思える。この理由は、本部主導のチェーンオペレーティングという部分も出てくるが、店頭スタッフの知識不足というのも大きいだろう。
「ヘルスケア商材をどのように販売していくか」ということを紐解いていくと、そこには「スタッフの知識力を高めていくこと」につながり、それが「スタッフの推売力の向上」に発展していく。
加速する狭小商圏化、そして一巡したコロナ特需など今期、ドラッグストアが乗り越えなければならない壁は高い。そこで力強いバネとして活躍するのが店頭スタッフであり、知識力という武装をすることで大きなエンジンになっていくことは間違いない。
流通ジャーナリスト=佐藤健太