先日、中国の高密市という青島空港から北西に車で1時間くらいのところに、健康食品、化粧品の輸出や製造の件で出張した。
中国に行くのは3回目で、過去に訪れたのは北京と上海である。北京と上海では表通りには高い建物が立ち並び、少し裏のとおりに入れば、民家とコンビニや飲食店などお店が所狭しと並んでいた。道には大量の車とバイク、自転車が行き来しており、「世界一人口が多い国」を実感した。
しかし今回訪れた高密市は、全く逆の印象を受けた。ホテルと取引先の会社を往復した範囲だが、車も建物も疎らで、コンビニは一軒もみなかった。バイクに乗っている人も少なく、自転車に乗っている人は一人もいなかった。ただ地平線まで畑が続いていたり、会社の敷地が東京ドーム4個分くらいあったり、「世界で3番目に大きな国」を実感した。
数年前、中国の観光客が日本の製品を大量に買い込み帰国するといういわゆる「爆買い」が話題となった。健康食品、化粧品業界も例外に漏れず、インバウンド向けの商品をよく見かけた。そのような商品が良く売れているという話も聞いた。
今でもインバウンドで健康食品、化粧品が売れている話をちらほら聞くが、以前ほどではない。爆買いが少なくなった原因は、2016年4月に中国政府によって行われた個人輸入に対する関税の改正で関税が高くなったからだと言われている。
健康食品だったら10%が15%、化粧品に至っては50%が60%に変更された。10,000円の化粧品を買って中国に持って帰ったら、6,000円の税金がかかることになる。爆買いで10本買って帰ったら、税金だけで60,000円にもなってしまう。
中国の人が日本で色々な商品を爆買いするのは、やはり日本製が良いからだろう。何人かの中国の知人に「何で中国の人は日本で爆買いするの?」と聞くと大体返ってくる答えは「中国の人は中国の製品を信用していない」だ。であれば、関税が高くなり、日本の商品が信用され、需要があるのであれば、中国に輸出をすれば良いだけのことである。
そんなに簡単なことであれば多くの企業が既にやっているだろう。中国に健康食品を正規に輸出する場合、まず形状でNGの場合がある。例えばハードカプセル、ソフトカプセルという日本で問題ない形状でも中国では基本的に販売することはできない。
「基本的に販売できない」と書いたのは、今回の出張でソフトカプセルの日本製の健康食品を目にしたのだ。正規のルートで輸入されたことを知り、驚いた。ただ輸入した人に聞いてみたところ、地元の通関では通らなかったが、中国は広く、色々な通関で申請したところ、通ったところがあったとのこと。しかしそのような曖昧な制度を知ると、逆に次回輸出するときに「前回はOKだったけど、今回は駄目!」と言われそうで、ビジネス的に考えると怖いものがある。
形状に問題がなくても、福島の原発事故以降、福島、東京、千葉など10都県で加工された健康食品は輸出禁止である。
形状も産地も内容物なども問題がなく、正規のルートで健康食品を輸出する場合、中国政府に申請する必要がある。この申請には製造工程や内容物の安全性などたくさんの書類が必要となる。その上、約2年くらい審査に時間がかかる。
しかし先日、ある中国関係に詳しい方から聞いたのだが、この審査でもルートによっては半年で審査が終わる場合があるというのだ。形状にしろ、審査にしろ、中国に健康食品を輸出するには、特別なルートを持っていないと厳しいようだ。
北京に行ったのが5年くらい前だった。デパートやストアーを10軒くらい回ったが、健康食品らしいものはほとんど見られず、田七人参や冬虫夏草など漢方が多く売られていた。漢方に慣れ親しんできた中国の人たちにとって健康食品は違和感があっただろう。
しかし最近の日本での健康食品の爆買いが示すように、中国の人にも健康食品を利用する人が増えているのだろう。中国のネットショップにも日本の健康食品がたくさん載っている。
日本でも25年くらい前は健康食品を利用している人は少なかった。もっと言えば健康食品は胡散臭くて信用できないものだと多くの人が思っていた。当時は今の中国と同じで日本でもソフトカプセルやハードカプセルなどは薬と誤認される可能性があるということで健康食品の形状として使われていなかった。
それが今では錠剤、ソフトカプセル、ハードカプセルなど色々な形状の健康食品があり、中小企業のみならず、大手の製薬メーカーや飲料メーカーなどが、こぞって健康食品業界に参入している。
現在の日本のように、中国でも数十年後には日本のような健康食品市場が形成されるのではないだろうか。中国は長い間、一人っ子政策だったため、これから高齢化社会が加速する。そのため政府の政策の重要課題に「健康」が掲げられている。
日本の人口の13倍以上が住む中国。その中国で健康のために薬ではなく、健康食品が日本と同じように普及して行けば、物凄い規模の市場となる。色々と面倒な申請、手続きなどあるが、日本の企業は中国進出を考えなくてはいけないと思う。
<筆者>NPO法人日本健康食品科学アカデミー 滝浪 周