以前、こんなことを聞いたことがある。
人はミドリムシと水だけあれば生きられる。
そんなうまい話があるだろうか。
ミドリムシは虫ではない。子供のころ、理科の授業で教わった人もいるかも知れない。
ミドリムシとは藻(も)の一種で、およそ0.05mmととても小さな生物。
「え、藻の一種なのに生き物!?」
ミドリムシは植物と動物の両方の性質を持つ。植物と同じように光合成もするし、動物のように動くことも出来る。つまり植物の栄養素と動物の栄養素の両方を兼ね備える。その栄養素の種類は、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、不飽和脂肪酸など何と59種類にも及ぶという。
この数年、その栄養価が高いことで、ミドリムシが入ったサプリメント、パン、ドリンク、お菓子などが売られている。
実は最初にミドリムシを食品として活用しようとしたのがNASA(アメリカ航空宇宙局)と言われている。宇宙食として開発したが、大量に培養することが出来ず、断念したらしい。
ミドリムシの大量培養に成功したのが、東京大学発のベンチャー企業「ユーグレナ社」である。以前は東大の構内に本社があった。因みにユーグレナとはミドリムシの学名で、ミドリムシは和名だ。ユーグレナもミドリムシも同じものだ。
大量培養に成功したのが2005年。現在、ユーグレナ社は東証一部の会社にまで成長している。
私たちが生きていくためには、炭水化物、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルなど約50種類の栄養素が必要だと言われている。
「ミドリムシは59種類の栄養素だから大丈夫!」
ということになる。確かに栄養素の種類だけなら問題ない。
「しかし…問題が…」
人は体内で栄養素を使ってエネルギーを作り出し、動いている。年齢、男女の差異はあるが、大体1日に1800~2000キロカロリーの食事量が必要だと言われている。ミドリムシのカロリーは、1gで10キロカロリーにも満たない。つまり1日で180~200gのミドリムシを食べなくてはならない。
量的には食べられないこともないが、金銭的にたぶん無理。市販のミドリムシは安くても1gで300円くらいはする。となると1日54,000~60,000円かかる。月にすると150万円以上かかることになる。
精神的に病みそうだ。
「更に決定的な問題が…」
栄養素別に見ると決定的な問題がある。
私たちが1日に最低必要なビタミンCの量は100㎎である。100㎎のミドリムシに含まれるビタミンCの量は5㎎ほど。となるとミドリムシを1日2kg食べなくてはならない。
「生きるためなら2kgだって…」
という人もいるかもしれない。しかしミドリムシを2kg食べてしまうと、摂取上限が1日約0.1㎎のビタミンDを約5000倍摂取してしまう。過剰摂取により、骨からのカルシウムの動員が激しく起こり、血清中のカルシウムとリン酸濃度が高くなり、腎臓や筋肉へのカルシウムの沈着や軟組織の石灰化が起こる。
59種類の栄養素を含むミドリムシは、健康、美容のサポートに効果的だが、ミドリムシと水だけで健康的に生き続けることは、ほぼ不可能。
一度きりの人生、美味しいものを食べるのも生き甲斐。
ただ現代人は間違いなく、1日で栄養素を食事から約50種類も摂取することは難しい。
健康的な食事を摂っていると思う人でも、ミドリムシを一緒に摂取することがお勧め。
食事が偏る、外食が続く、肉が好き、お酒を飲む、タバコを吸う、ストレスが多い方などは、尚更お勧めしたい。
<筆者>NPO法人日本健康食品科学アカデミー 滝浪 周